みなかみ町月夜野地区、月夜野I.C降りてすぐの山すそに、たくさんのりんご園が並んでいる。東京生まれ東京育ちの上田稜馬さんが栽培に挑戦するりんご園もその一つ。農業とは無縁だった都会っ子が、地域になじみ、農業に夢を託すようになるまでを追った。

東京都→みなかみ町(2014年移住) 上田稜馬さん・加奈子さん

profile

東京でサラリーマン家庭に育ち、大学卒業後は都内の会社に就職。加奈子さんの実家のあるみなかみ町に遊びに行くうち、移住を決意。2014年、結婚と同時に移住し、農業研修を受けてりんご栽培に挑戦中。奥さんは農協に勤務。

午前10時。山並みを望む広々としたりんご畑。今年の実りも上々だ。

稜馬さん|都会育ちなのに人混みが苦手で、アレルギーもあったんです。彼女の実家の月夜野に度々来るうちに、なんて居心地がいいんだろうと思って。何よりりんごが大好きだったので、代々続いたりんご園を継ぐ人がいないと聞いて、ぜひ自分が継ぎたい!と。

工学部卒で農業にはまったく関わったことはなかった稜馬さんだが、地域の人々に温かく迎えられ、すぐになじめた。

代々りんご園を営んできた高橋家は、農業体験の民泊も受け入れる大きな農家。

会社を辞めて、りんご園を継ぎたいと聞いたとき、加奈子さんは?

加奈子さん|彼と結婚したら東京人になると思っていたので、真逆になって正直びっくり。父は公務員で、りんご園は祖父母と母で細々とやっていましたが、彼が継いでくれるというので父も早期退職してほぼ同時に就農したんです。いずれ子どもができたら、両親の近くで子育てできるのは幸せですね。

人生設計が180度変わったという加奈子さんだが、やっぱり両親の近くで暮らせてうれしい。シーズンには加奈子さんもりんご園をお手伝い。

りんご農家にはどうやって?

稜馬さん|まず1年間、県の農業技術センターでりんご栽培の基本的なことをみっちり教わりました。今、センターで農業技術を学ぶ人はほとんどいないようで、僕一人に先生が10人! ぜいたくな環境ですよね。義父もしばらく一緒に通いました。それから、畑を広げ、今は約2ヘクタールを義父と義母、僕で3分割して、それぞれ自分の畑を管理しています。

赤いりんごを作るために、葉を落としたり向きを変えたりして陽に当てるのも大事な作業。

稜馬さんと、義父母の高橋公利さん・品子さんの三人で営む「やまとしりんご園」。

東京でのサラリーマン生活と比べてどうですか?

稜馬さん|人混みという概念がなくて精神的にゆったりできるし、アレルギー体質も改善されてきました。実は虫が苦手だったんですけど、もう慣れました(笑)。収穫シーズンは忙しいけれど、後は早朝と夕方作業して昼間は家でゆっくり。自分のペースで働けるのがいいですね。夜は週3回、消防団の練習、その後深夜まで飲み会かな。

同年代のお仲間はできましたか?

稜馬さん|りんご青年部や農協青年部、地域の消防団などに入っていますが、一番年下なのでみんなにかわいがられていますよ。この地域は消防団活動も熱心で、今年はポンプ操法で県2位になったんです。まったく知り合いがいないところに来たのに、東京にいた頃より交友関係が深まりましたね。

四季折々に変化する山里の風景、さわやかできれいな空気。都会暮らしとは違った豊かさを感じる日々だ。

冬場の雪は問題ありませんか?

稜馬さん|来た年がたまたま記録的豪雪だったのでびっくり! 雪かきなんて初めてで。例年は、降雪は少ない地域のようですが。冬も畑の作業はありますが、合間に副業もできるんですよ。義父はスキー場でアルバイト。僕は高速道路の除雪の仕事を始めました。今年は除雪車を運転できるよう大型の免許を取ろうかなと。スノボやゴルフもここに来て始めました。スキー場もゴルフ場も周りにいっぱいありますからね。仕事終わりにナイタースキーというのも可能ですよ。

稜馬さんのように、ここで農業を始めたいという人がいたら?

高橋公利さん|大歓迎です。畑は農地バンクで借りられるし、空き家もあるので移住したい人にはチャンスですね。果樹農家は収入はいいのですが、収穫できるようになるまで時間がかかるのがちょっと難点かな。

若い人たちが新しい考えで取り組んでいるのは頼もしい。りんごの収入だけでもやっていけるが、冬にスキー場の仕事をするのも楽しみ。

これからの夢は?

稜馬さん|月夜野りんごの認知度をもっと全国的に高めたいですね。本当においしいし、根強いファンもいるんですよ。農協青年部など若い仲間たちと、PR方法を考えているところです。「ふるさと便」で全国に送ったりもしています。

とびきりおいしい「月夜野りんご」。果汁100%のジュースも驚くほど甘くて味が濃い。

稜馬さんの畑で穫れたりんごのジュースは、店舗販売はもちろんインターネット販売でも大好評。

住まいについて

二人が暮らす後閑駅近くのアパートは2LDKで家賃4万円。この広さでこの家賃は、東京とは比べ物にならない。
東京から友だちが来たら、民泊体験も受け入れている加奈子さんの実家に泊まることもある。

アクセスについて

群馬に来てから車を運転するようになった稜馬さん。車があれば買い物などの日常生活はもちろん、どこに出かけるのも不便はない。月夜野地区は高速のインターや新幹線の駅も近いから、休日に遠出するのも楽だという。