片品村菅沼地区、なだらかな丘陵地に「北毛茶屋」というお店がある。小さな頃から自然が好きで、人との縁を大事にしてきた中村さんが、片品村で出会った人々と創り上げた新しい事業の出発点だ。地域おこし協力隊として移住し、定住&起業を選んだ彼女に理由を聞いた。

茨城県→片品村(2015年移住) 中村茉由さん

profile

大学を卒業後、北海道のNPOで、小学生対象の自然体験事業を企画運営。その後、片品村の地域おこし協力隊一期生として3年間活動し、2018年4月に北毛茶屋をオープン。週末は移動販売車で様々なイベントに出店している。

午後10時。見上げた空には満天の星空と流れ星。

片品村の中でもこのあたりは標高が高いので、星が綺麗に見えるんですよ。この間とくに感動的な日があって。5等星まで全部見えるような、プラネタリウムみたいな感じ。流れ星も5回見たんですよ。春は芽吹き、夏は星、秋は紅葉で日々山の色が変わるし、冬は雪がきれい。毎日風景が違うのが楽しいんですよ。

店の前に広がる風景。のどかな道路を、時折トラックやトラクターが走る。

片品村地域おこし協力隊を知ったきっかけは?

転職活動をしていたときに、たまたま参加したイベントに片品村がブースを出していて知りました。「協力隊になろう」と思っていたわけではないんですけど、前職での経験から、地域おこしの活動をやっていく上で、本気で地域と関わるには、そこに根差していないと積み重なっていかないなって感覚が生まれていて、協力隊という方法もあるな、と。
私、結構山が好きで。次に住むなら水がおいしいところがいいなと思ったので、尾瀬の水源というイメージにも惹かれましたね。内容もわりとフリーミッションで、いろんな可能性がありそうだなと思って決めました。

協力隊では積極的につながりを作っていった?

1年目はとにかく顔を覚えてもらうために、声をかけてもらった行事には全て参加しました。同時に、片品村を含めた北毛地域の方々が月一で開いている「北毛茶会」というお茶会にも参加させてもらって、農家さんや事業をやっている方など、様々な方と交流させてもらいました。
2年目からは青年会議所がやっている事業にも関わらせてもらったり、わりと広域のエリアで人のつながりを作らせてもらいましたね。

片品村以外にもつながりを作った理由は?

今までの経験から、地域おこしをやろうとすると、単独自治体だけでは限界があるなと思っていたし、観光するお客さんからするとエリアでものを見ていると感じていたんですよね。片品村で暮らしている人も絶対沼田までを生活圏としている。そういう意味では広い目で物事を考えたかったし、実際に教えてくれたのは北毛茶会の人達でした。

小さな頃から人が好きで、自然が好きだったと語る中村さん。大学では環境とコミュニティについて学ぶ。

定住を考え始めたのはいつ?

2年目くらいから、「協力隊が終わった後も住み続けたいな」という気持ちが出てきて。片品村や利根沼田の人達とつながりができていったことで、これからも一緒にいたいなって思ったんですよね。じゃあ協力隊を終えてどうするかって考えたときに、知り合いから「地域おこしの活動を続けていきたいんだったら、起業という選択肢もあるんじゃない?」と言われて。
それで3年目は協力隊と並行して、沼田市が主催している「ぬまた起業塾」に通わせてもらいました。

起業のキーワードは“農と食”。

片品村に住んでみて感じたのは、暮らしの居心地のよさと、食するものも心地いいものが多いってことだったんです。協力隊の活動で、農家さんをまわってインタビューする機会があったんですけど、どのお宅を訪問しても「お茶でも飲んでいきなよ」ってお茶を出してもらって、そうすると漬け物が出てきて、うどんやおはぎが出てきて(笑)。何もないっていいながらどんどん出てくる。そういう暮らしの中の当たり前の味がすごい魅力的で、これが地域の味だなって。自分の友達や家族が来たときに食べさせたいのってこの味だなって。でもいわゆる家庭料理だから、地域の味を食べさせるお店ってなくて、そういう場所があってもいいかなって。

(左・右上)接客から調理まで、基本的には1人で行う。(右下)近隣農家の新鮮なジュースも提供している。

ランチセットのメインは尾瀬豚の味噌漬け焼き。片品村の大白大豆で作られた味噌もこだわりだ。

そこで北毛茶屋の事業計画を立てた?

もともとは移動販売車で、地域の魅力の“食”をいっぱい積んでいろんなところに発信していきたいと考えてたんです。でもレトルトではない商品を出すためには、営業許可の取れているキッチンがないとできないという壁に当たって。ちょうど空き家バンクに元食堂だったこの場所が登録されていて、役場の方を介して大家さんを紹介してもらいました。

元食堂というこの物件は、リフォームの必要がないほどきれいな状態で残されていた。

開業には周りの人達の協力があった?

それはもう。まず大家さんがとても思いのある方で、快く場所を貸してくださったのはもちろん、オープン前に地区の家々にあいさつ回りをしたときも全て同行してくださって。オープン後も多大なサポートをいただいています。
北毛茶屋の仲間たちも、お店ののれんを染めてくれたり、移動販売車を作るのを手伝ってくれたり。
お店で扱う食材も、どういう思いを持って作っているか知っているところから仕入れたいという思いがあったので、これまで協力隊としてインタビューした方や、北毛茶屋で出会った方の中から、トマトはここ、お米はここ、って一つ一つ選んでいます。

(左)たくみの里の染め職人が染めたのれん。(右)移動販売車co.chaya(コチャヤ)。牽引トレーラーに手作りで小屋を建てた。

今後の目標は?

「農と食で地域を活性化させたい」という次の人材を呼び込んで、仲間を増やしていくことです。1人でできることには限りがあるけれど、人が増えれば変わっていく。農家さんが抱えている、高齢化とか販路の少なさとか、いろんな課題に関わりながら新しい価値を提案していけるような人が増えたらいいな。
そのために、今年7月から「移住定住コーディネーター」としても活動を始めました。移住希望者のサポートや情報発信、片品村が移住しやすい村になるよう、村全体の環境づくりにも取り組み始めています。

店の裏手に畑が広がる。後方に見える裏山にもいいハイキングコースがあり、整備したいと意気込む。

これから起業を考えている方へ

群馬の山間部のエリアはどうしても人口が減っていて、足りないものが多い。ということは新しいものを作るチャンスがあるし、何かを始めると喜んでもらえる人達もいる。こういう地域でビジネスを始めるにはつながりが大事で、自分のやりたいことプラス、地域らしさを大事にできる人が起業すると新しいものが生まれると思います。

起業について

「北毛茶屋」開業にあたっては、自己資金と、地域おこし協力隊への起業支援金100万円を活用。店舗内はリフォームの必要がなかったため、ラッキーだったと振り返る。3年間で積み上げたつながりのおかげで、初期費用がかなり抑えられたという。

地域おこし協力隊について

地域活動を行いながら、地方への定住・定着を図ることを目的に、総務省が取り組む制度。地方自治体からの委嘱を受け、地域で自活しながら地域協力活動を行う。おおむね1年以上3年以下の期間、地方自治体から報酬が支払われる。