赤城山中腹、市街地を見下ろす景色抜群の場所に住む堀井さん一家。合計5カ所の土地を借りて、農薬や化学肥料を使わない野菜を栽培・販売している。独特の雰囲気を持つお二人の理想は「自給自足の生活」。暮らしのこだわりをうかがった。

神奈川県→渋川市(2011年移住) 堀井一平さん・裕紀さん

profile

バックパッカーとしてアジア旅行中に知り合ったという一平さんと裕紀さん。帰国後、長野県やオーストラリアで修行した後、渋川市に移住し「あっちゃーふぁーむ」を立ち上げた。麦音ちゃんが生まれ、現在は家族3人暮らし。

午前5時。コーヒーを一杯飲んで、野菜の収穫に出かける。

一平さん|野菜を収穫したら袋詰めして、出荷準備をしてから朝ご飯ですね。その後は出荷に出たり、畑仕事をしたり。今、全部で一町歩の畑を借りているので、毎日見て回ります。逆に夜は早くて、9時半には眠くなりますね。

野菜の袋詰めを行う作業所。奥には大きな冷蔵庫がある。

あっちゃーふぁーむの由来は何ですか?

一平さん|「あっちゃー」ってヒンドゥー語で、「いいね」って相槌のような言葉。よく会話に出てくるんですよね。インドとか行ったことある人だと食いついてくれます。
20代のときにバックパッカーをしていて、ネパール、パキスタン、中国、チベット、ヒマラヤ山脈をぐるっと回ったんですけど、そこで出会った方々が基本自給自足で生活していたんですよね。僕らみたいな、日本に帰ればお金を稼げる人達にも、「旅人だから」っていろいろよくしてくれて、その、お金で測れない裕福さに心打たれて。自分もこうなりたいって思いました。で、旅先で知り合った人に紹介してもらって、日本に戻ってから自給自足を実践している長野県のカナディアンファームというところで約2年を過ごしました。

どうして群馬に?

一平さん|嫁さんの実家が群馬だったので、一度赤城山にドライブできたことがあったんです。この近くに無農薬でワイン用のブドウを作っている人がいたので、その人に「僕もいずれはこういう場所に住みたい」と話したら、地元の方を紹介してくれて。それで空き家になっていたこの家を見せてもらいました。道路を走ってくると、ちょうどこの辺で景色が開けるんですよ。直感的に農業しやすそうだなと思いました。日の当たり方とか。他にも2~3件見せてもらたんですけど、この場所がいいねって即決に近かった。

元気いっぱいの麦音ちゃん。笑い声をひびかせながらあちこち走り回っている。

(左上)ギターは一平さんの趣味。(左下・右)もともとあったものを活かしながら、2人の個性が溶け込んでいる。

移住後はすぐ野菜作りを始めたんですか?

一平さん|徐々に、ですね。移住当初は、別の縁で紹介してもらった植木の仕事と自分用の畑ぐらいしかやってませんでした。家の前の畑も別の方が借りていたので、2年目ぐらいから借主の方と交渉して、借りられることになりました。
最初はトラクターもなくて、クワだけでやれるかなと思ったけど、すぐに無理だって気づいて(笑)。地元の仲良くなった農家さんから最初は借りて、そのうち植木の仕事で貯めたお金で中古のトラクターを買って機動力を上げて。そうやってちょっとずつできることを増やしていきました。畑もだんだん増やしていって、今の数ですね。

裕紀さん|私は、農業はもうちょっと年を取ってからのイメージだったんです。40歳過ぎてからやるんじゃないかな~って。だからちょっと早まりましたね。

大きな木のテーブルが、堀井家の食卓兼だんらんの場所。

地域の方とはどこで知り合ったんですか?

一平さん|僕はコミュニティの場所が近所の温泉でした。最初、うちには風呂もなかったんですよ。なので毎日温泉に入りに行っていたので、地元の方から「どっから来た?」って声かけてもらって。「横浜から移住してきたんです。農業やりたいんです」って話してたら、「じゃあ畑あるよ」ってつながって。地元の方が通う温泉だったのでよかったですね。修行していた長野県とここでは気候も違うので、種を蒔くタイミングとかもいろいろ教えてもらっています。

現在は何種類ぐらいの野菜を作っていますか?

一平さん|50種類ぐらいかな。レタス1つでも3種類作っているし。本当にいろいろですね。春菊、ロシアンケール、からし菜、下仁田ネギ、かぼちゃ。春から夏はキャベツ、夏は空芯菜とかモロヘイヤ、秋は根菜、サツマイモとか、冬は下仁田ネギが多いですね。あと小麦もやっています。

裕紀さん|藍染め用の藍とか、スパイスもちょっと育てています。

自家製釜を覆う屋根の軒先にトウモロコシが干されていた。どこか懐かしい印象を受ける。

どうして多品種を?

一平さん|自給自足的な作付でうまく回らないかなってのを考えているんですよね。年間通して、いろんな野菜を食べたいじゃないですか。自分達も食べるし、消費者にも食べてもらいたい。どれか一本に絞った方が効率的にはいいんですけど、それだと面白くなくなっちゃうなって思って、そこは曲げてないですね。

今後の展望はありますか?

一平さん|ここ2~3年で軌道に乗ってきたので、今後も同じやり方でもっといい方法がないか模索したいと思っています。非効率だけどおもしろくて、ちゃんと食べていけるやり方を求めていきたい。今年から加工品の販売も始めました。嫁さんが食品加工責任者を取得して、イベント出展などで野菜を売るのと並行して加工品の販売も始めました。

加工品はどんなものを販売されているんですか?

裕紀さん|タバスコ、マスタード、ニンニク味噌とかの瓶詰商品と、うちで作った小麦や野菜でネパール風蒸し餃子を作って販売しています。季節ごとの野菜を入れるようにしているので毎回味が違うかも。今だったらにんじん、ズッキーニ、焼きナス、タマネギ。タマネギがこだわりで、自家製の釜で飴色になるまで火を入れたのを使ってるんですよ。

特製のネパール風蒸し餃子を仕込み中。

リピーターも多いという加工食品。県内外のイベントで買うことができる。

裕紀さん|実は今年、退職した両親もこっちに引っ越してきたんです。2~3年前から「移住したい」とは言われていて。うちの前に家を建てたので、毎日がちょっとにぎやかになりましたね。

一平さんのご両親の家にはテラスがあり、市内を一望できる。

土地取得について

堀井さん一家は、家も畑も、自ら知り合った地元の人に紹介してもらって借り受けた。市の空き家バンクにはなかなか載らない情報もあるので、地元の人との交流から不動産情報などを取得するのも一つの方法だという。

販売方法について

収穫した野菜は、都内や県内の店舗に卸す他、イベントに出展して直接販売も行っている。卸ルートはイベントなどで個人的につながりを作ったものが多い。今後加工品や料理の販売も広げることで、安定した収益につなげたいと考えている。