絵本の世界に入り込んだような深い森の中に佇むのは、旅行雑誌で全国ベスト3にランキングされた人気の宿。嬬恋村の景観に魅せられて四国から移住し、二人で原生林を開拓してコテージを手造りされたご夫婦に、高原の別荘地暮らしの魅力をうかがった。

徳島県→嬬恋村(2014年移住) 植木竹光さん・純恵さん

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徳島でビルの鋼製建具取り付け職人として働いていた竹光さんと会社員だった純恵さん夫妻。自宅のログハウス建築を機に、嬬恋村のログハウス仲間を訪ね、村の景観に一目ぼれ。移住して貸別荘「つくつく村」を経営。

午後3時。コテージ周りをきちんと整えてお客様を迎える。

お客様を迎える準備をする純恵さん。バルコニーのすぐ外にはさわやかな森が広がる。

純恵さん|聞こえてくるのは、木々を揺らす風の音と、トントンとどんぐりが落ちる音だけ。そんな森の中にブランコやハンモックを設けたら、お客様にとっても喜ばれて。
空の色がこんなに深い青色というのも、ここに来て初めて知りました。徳島にいた頃は、空は水色だと思っていたけど。夜空もきれい。流れ星がよく見えますよ。

竹光さん|空に近くて空気も澄んでいるからね。流れ星は10秒に1回くらい見えるときもあるよ。
肌寒くなったら、薪ストーブに火を入れてお客様を迎える。夏に泊まったお客さんが、薪ストーブを見て寒い季節にまた来てくれることもあるね。

チェックイン前に部屋の薪ストーブに火を入れるのは竹光さんの担当。

徳島から群馬って、どんな縁で?

純恵さん|ずっとマンション暮らしだったんですが、私の両親を引き取るためにログハウスで自宅を建てたんです。その建築記録をブログに上げたら、全国にログハウス仲間ができて。長野方面への旅行ついでに嬬恋村の仲間の家を訪ねたんですね。そうしたら、すっかりここに魅了されちゃって。ちょっと立ち寄るだけのつもりが2泊も(笑)。その先の旅は取りやめて、帰る道中「あそこに住みたい、住もう!」って二人で盛り上がりました。

竹光さん|パノラマラインから愛妻の丘方面の景色は、初めて来たときももちろん驚いたけれど、何度見ても思わず「うあー!」と声が出るほど感動するね。標高1,200mって四国だったら山の上。そこにこんなに広い大地が広がっていて、森の中には別荘地があって……。
徳島には新築の自宅があったけれど、それでもここに住みたいと思った。建具職人として長く働いてきて、50歳になったら違う仕事をするのが夢だったんです。ここに来て「ああ、これだったんだな」と。

嬬恋村の景観に一目ぼれしたという植木さん夫妻。原生林を買って、二人で一からコテージを手造りした。

ここで貸別荘業を始めたのは?

純恵さん|半年後には古いログハウス付きの1,000坪の原生林を買っちゃいました。 初めは貸別荘なんて全然考えていなくて、仕事はゴルフ場やスキー場でアルバイトがあると聞いていたし、私はホテルの清掃係でもすれば生活できるだろうと。

至るところに遊び心満載の「つくつく村」。一歩足を踏み入れただけでメルヘンの世界に引きこまれる。

竹光さん|貯金を使い果たしたから、創業補助金制度を利用したんです。家具作りで申請したらだめで、それなら貸別荘業でもと申請したら通った。じゃあ、やるしかない!後付けなんですよ(笑)。

(右上)中古のログハウスは北欧風にリノベーション。(右下)寄木細工のテーブルなどほとんどの家具が竹光さんの手造り。初めは家具作りでの創業を考えたというのも納得。

こんな素敵なコテージをどうやってDIYで?

純恵さん|1年半かけて少しずつ。予算がなかったから業者に頼むという考えはなかったの。初めに、原生林を200本くらい伐採・抜根して、重機で平らにして。

竹光さん|自分たちだけでやってみたいという気持ちもあったね。まず薪小屋を建てて、それから1棟目の自宅兼作業場。
井戸を掘ろうと思っていたけど、移住・集落支援室の高丸さんの助言で水道が引けたのはありがたかったです。

純恵さん|イメージを私が絵にかいて、強度計算とかは専門家に。プレカット屋さんで切ってもらった木材を運んで組み立てました。
外壁は、以前から好きだったモルタル造形作家の水村先生の作品のようにしたくて、所沢まで先生を訪ねました。そうしたら「手伝いますよ」と言ってくださって。自宅の東側の壁を教材として教わりました。その後は自分たちだけで。外壁も、廃材を組み合わせた内装も、窓や扉も、家具も、ステンドグラスも全部二人で手造りしました。

竹光さん|方々から廃材を集めたり、解体する家の窓ガラスをいただいたり…。あちこちから声を掛けていただいて、いろんな人の手助けがあったからできたんですよ。
中古のログハウスも北欧風にリノベーションして、もう1棟は南仏風のコテージを一から建てました。

DIYで建てた南仏風コテージ。モルタルの壁やドアの装飾なども純恵さんのイメージ通り。

細部にまで二人のこだわりが詰まった内装。ステンドグラスも純恵さんの手造り。

今や「泊りたい宿全国ベスト3」ってすごいですね!

純恵さん|たまたま泊まったお客様が有名なインスタグラマーさんで、インスタグラムで拡散してくださったんです。それを見た旅行雑誌「ことりっぷ」のライターさんが泊まりに来て、掲載してくださって一気に広まった感じですね。
20、30代の女性で、ディズニーやジブリの世界が好きな人たちに喜ばれています。

移住して困ったこと、とまどったことは?

竹光さん|よく聞かれるけれど、困ったことは本当に無いんですよ。雪は積もっても50cmくらい。重くないから雪かきも苦になりません。ほうきでササッと掃ける。

純恵さん|ここは別荘地なので周りはみんな移住者ばかり。気を使わなくてすむのもよかった。ものづくりが好きな人が多くて、お互いに教え合ったりしています。四季折々に良さがあるけれど、冬が好きという人が特に多いですね。
村内で買えないものはネット通販を使うので、日常生活にも不自由はありませんよ。
実は、徳島に住んでいる息子も、こちらに移住することになっているんです。

竹光さん|息子の住む家と、コテージをもう1棟。後2回建てる楽しみができました。やっぱり小物より、大きいものを造る方が楽しいですから。

なんでも手造りしてしまう植木さん夫妻。現在も、いただいた廃材などを材料に自宅の裏にDIYで増築中。

嬬恋村に移住したい人にアドバイスはありますか?

純恵さん|「カフェやるぞ!」とか意気込んでやってくると、うまくいかなかったときつらいと思う。だめだったらアルバイトすればいいやというくらいの気楽な気持ちで。こだわらなければ、仕事はありますよ。

竹光さん|ここから佐久や上田、軽井沢などに通勤している人もいます。通勤時間も30~40分くらい。ネットを使った仕事ならどこにいてもできますしね。
まずは移住・集落支援室に相談してみるのもおすすめですね。村内住民と別荘地住民はあまり接点が無いけれど、支援室の担当者が広報を配ってくれたり、村内の新しい情報を伝えてくれたりして、つないでくれるのはありがたいです。

純恵さん|泊まりに来たお客様から移住の相談を受けることもあります。実際に移住した人は二人。ほかにも、数人から相談を受けています。
いろんな人に助けてもらったので、今度は私たちができることで手助けできればと思っているんです。

最初に建てた自宅前で語らうお二人。移住を決めた息子さんの家を建てる楽しみもできた。

嬬恋村移住・集落支援室について

「村内暮らし」と「別荘地暮らし」の2パターンの移住スタイルがある嬬恋村。移住・集落支援室は、それぞれの暮らしに合わせて相談できる窓口だ。接点の少ない2つの地区をつなぐ役割も果たしている。

支援制度について

植木さんは資金不足を補うために創業補助金を利用したが、それ以外にも子育て支援、住宅支援、起業支援など、自治体ごとにさまざまな支援制度がある。利用できる制度について情報を集めることも重要だ。

 

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