富岡製糸場のほど近く、表通りから1本入った路地に店舗を構え、洋食レストラン「イル・ピーノ」を経営する馬場さん。11年前にUターンして富岡に移住。生活圏がコンパクトにまとまった富岡は、とても暮らしやすく、なじみやすいまちだと語ってくれた。

長野県→富岡市(2007年移住) 馬場俊人さん・未咲さん

profile

夫婦と、千寿さん(中2)、栞さん(小6)、里音さん(小5)、穣一君(3歳)の6人家族。市中心部で洋食レストランを営みながら、仲間とともに街なかに人が集えるしくみづくりを模索中。

日曜の午前10時。天気のいい日は家族で近くの丘へピクニック。

市街地を見下ろす城山公園へみんなでピクニック。日曜日は店舗を閉めて、家族で過ごす時間を大切にしている。

俊人さん|店を深夜まで開店していて、平日は子どもたちだけで過ごすことが多いので、日曜日は家族との時間を大事にしています。車や電車で遠出することもあるし、近くの公園で遊ぶことも。富岡は、駅も高速のインターチェンジもあるので、どこへ出かけるのも便利ですよ。

群馬にUターンするまではどちらで?

俊人さん|高校まで高崎で暮らしていましたが、母の出身地の大阪の専門学校へ進学して、卒業後も大阪で旅行会社に勤めていました。
25歳の頃、長期の休みで帰省したときに、高校時代にアルバイトしていたレストランのシェフに誘われたのが、料理の道に入ったきっかけです。群馬にUターンして、まず高崎のレストランに就職。その後、軽井沢で店を開くという人に誘われて、それから10数年は軽井沢で働きました。その間、妻と知り合い、結婚して、子どもは3人目まで軽井沢で生まれました。リゾート地なので、夏場は3カ月くらい休み無く働いて、子どもと触れ合う時間もなかなかありませんでしたね。
子育てや暮らしやすさを考えて、母が住んでいた富岡に引っ越したのが11年前。2年間ぐらい富岡から軽井沢まで通勤した後、富岡のインターチェンジ近くに住居付きの店舗物件を見つけて、独立・開業しました。

軽井沢に住んでいた頃は、夏場はほとんど子どもたちと触れ合えなかったと話す俊人さん。

奥様は、群馬の暮らしはいかがですか?

未咲さん|私の実家は新潟県の魚沼市ですが、富岡は、都会過ぎず田舎過ぎないところが私の地元とよく似ていて、すごくなじみやすかったですね。雪も少ないので冬も楽です。軽井沢に住んでいた頃は、光熱費がずいぶんかかりました。観光で行くのはいいけれど、買い物などふだんの生活には不便なことも多かったんです。
富岡に引っ越したのは長女が年中のときでしたが、ママ友もすぐにできたし、保育園も希望のところに入園できました。園によって特色があるので、選べるのはありがたいですね。うちは4人とも同じ保育園に入れました。

都会過ぎず、田舎過ぎない暮らしが気に入っているという未咲さん。

俊人さん|実は、今の店の大家さんが保育園の園長さんなんですよ。「まちなかに空き物件があるんだけれど、使ってみない?」と言ってくださって。3年前に夜だけの店舗を開業しました。しばらくは郊外の店でランチ、こちらでディナーと2店舗経営をしていたんですが、子どもが病気になったのを機に郊外の店は閉めて、自宅としてだけ使っています。

未咲さん|群馬に住んでよかったことといえば、中学卒業まで医療費無料というのも、子どもが4人いるので本当に助かります。乳幼児の頃は病院に連れて行くことが多いし、最近は娘が長く入院したんですが入院費まで無料とは知らなくて、「入院費0円」という請求書を見てびっくり!(笑) 病院と専門医との連携もとてもスムーズに行ってもらって、ありがたかったです。

馬場さんのお店「イル・ピーノ」はポケットパークに隣接。2階には眺めのいいバルコニーも。

都会過ぎず、田舎過ぎない富岡の魅力って具体的には?

未咲さん|古くからの商店街もあるし、少し足をのばせは大型ショッピング施設もある。近くに磯部温泉や緑豊かな自然もあるし、思い立ったら都内まで高速バスですぐ行けます。家を建てるにも手が届く価格だし、県内でも高崎や前橋より静かで、とにかくすべてがコンパクトにまとまっている感じですね。
人の温かさやつながりも感じます。秋には「どんとまつり」という大きなイベントがあるのですが、うちの子たちはずっと山車が出る地区にあこがれていました。まちなかに店舗を出してから、宮本町の山車でお囃子に参加させてもらって、すごく喜んでいますよ。

ご主人は、まちなかににぎわいを取り戻す活動をしておられるとか。

俊人さん|地元の人に聞くと、昔はまちなかに人があふれていた。だけど今、製糸場周辺の表通りにはおみやげ屋さんなど観光客向けの店舗はできたけれど、地元のお店は寂れてしまって、特に若い子が少ない、子どもたちもまちなかに来ないと嘆かれていたんです。それで、地元の商店街の人と一緒にまちなかを盛り上げようと。
活用されていなかった店舗の隣のポケットパークを使って、イベントを開いたり、結婚式に使ったり……。料理はうちで提供して、ガーデンパーティーという形で。大人数でもだいじょうぶだし、にぎやかになるので、近所の人たちにも喜ばれています。
有志6人でスタートした「富岡まち繰るみ舎」という事業にも参加しています。メンバーは私と地元の商店の人や都内でまちづくりに関わっている人たち。空き家をリノベーションした「まちやど」という形態のゲストハウスを建築して2019年春オープン予定です。宿泊だけの施設なので、朝食や昼食などの提供には、今後この店舗も使う構想もあります。

にぎわいを取り戻すために、ポケットパークを活用したいという馬場さん。子どもたちが集まる場にと、駄菓子屋の併設も考えている。

地元の人と一緒に、というのがいいですね。

俊人さん|まちなかには閉める店はたくさんあるけれど、新しい店舗のオープンは珍しい。サイクルの早い観光客相手の店と古くからの地元商店街の人とは、あまり交流がないんです。
そんな中で、私がまちなかに新しく店舗を出すとき、一番頼りになったのは近くの入山洋品店の入山さん。地元の人たちとの橋渡しもしてくださいました。そういう頼れる人がいるのはやはり大きいですね。
富岡には空き物件もたくさんあるし、商売を始めたいという人がチャレンジする場所としてはいいんじゃないかなと思います。市も商工会議所もリノベーションをバックアップしてくれます。
周りの人たちに助けられて今があるから、今度は私たちが新しく入ってくる人のサポートもできればと思っています。

中心街の路地にある「イル・ピーノ」。ゲストハウスのオープン後は、宿泊客への食事提供など構想を練っている。

お仲間が増えて、夢が広がりますね。

俊人さん|ここに人が集まるしくみをつくりたいんです。せっかくポケットパークがあるので、子どもたちも遊びまわれるような場所に。子ども連れのママたちの憩いの場として昼も開店したり、倉庫を改装して駄菓子屋をやりたいな、とも思っているんですよ。
市営駐車場から電動バスに乗って、お母さんたちと子どもたちがまちなかに来て、ご飯を食べて、また乗って帰るとか……。いろんな世代が集って、つながりができるような場をつくっていければと、いろいろ構想を練っているところです。

子ども医療費について

4人の子どもを持つ馬場さんは、娘さんの長期入院により「中学卒業まで医療費無料」のありがたさを実感したという。群馬県が全国に先駆けて実施した全国トップレベルの先進的な取り組みだ。

食材について

店舗用の食材は、JA直売所「食彩館」、道の駅甘楽の物産コーナー、市役所隣の「おかって市場」の3カ所を回って仕入れるという馬場さん。新鮮でおいしい地場産食材が揃うのも群馬県の魅力の一つ。

 

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