埼玉県と接する県南部の玉村町。前橋・高崎・伊勢崎など県央の都市圏の真ん中にありながら、田園風景が広がり、赤城・榛名・妙義の上毛三山をぐるりと見晴らす。ここに拠点を置き、邦楽家として活躍されるご夫婦にぐんま暮らしの魅力を伺った。
「佃流」の尺八・篠笛奏者として国内外で幅広く活躍される康史さんと、三味線奏者の美代子さん夫妻。東京生まれ東京育ちのお二人は、交通の便のよさと周囲の環境にひかれて玉村町への移住を決めた。
美代子さん|この子は群馬に移住する前から飼っていて、もう12歳でおばあちゃんなんですよ。赤城山のふもとにある「世界の名犬牧場」に遊びに行ったとき、里親募集の犬の中から見つけました。
今はほとんど家の中で過していますが、ここに来た当時は、毎日庭で遊んだり、近所を散歩したりしました。このあたりは高い建物も無く、広々としていて気持ちいいんです。環境のよさを実感しています。
移住前から飼っていたという群馬生まれの愛犬“おまめ”。天気のいい日は庭で遊ばせることも。
玉村町に移住しようと思ったわけを教えてください。
康史さん|もともと二人とも群馬に縁はなかったんですが、邦楽家の僕の父が群馬の民謡の団体と交流があって、指導のために東京と群馬を行き来していたんです。そうするうちに、こちらにも拠点を置いて活動するようになり、両親は20年以上前に渋川市に移住しました。
私は東京で仕事をしていましたが、妻と出会って住む場所を探すうちに、両親の家にも近いし、環境も気に入って、「ここがいいね」ということになったんです。
美代子さん|仕事柄あちこち出かけるので、交通の便がいいことが第一でした。康史さんのご両親と一緒にセッションを組むこともあるので、両親の家に近いのもいいなと思って。
お仕事は、遠くまで出かけられるんですか?
美代子さん|群馬の生徒さん向けには自宅で教室を開いています。そのほか、東京と愛知、岐阜など6カ所に拠点があって、毎月お稽古に行っています。仕事は二人ともほぼ別々に活動していますね。康史さんは、1か月公演などが入ると、その間帰ってこないときもあるんですよ。
車移動が多いので、インターチェンジが近いのはとても便利です。
康史さん|電車も使いますね。新町駅から湘南新宿ラインに乗れば、乗り換えなしで東京まで1時間半です。仕事ではあちこち出かけます。インドに行ったこともあるし、アラスカからロシアに行く客船の中でも演奏しました。
仕事柄、全国各地に出かけるという康史さん。玉村町は、車でも電車でもアクセスがいいところが魅力だという。
町の小中学校での出前ライブのきっかけは?
康史さん|玉村町では、以前から県外のアーティストを呼んで出前ライブを催していたようですが、私たちが移住したことで、文化会館のスタッフの方に声を掛けていただきました。
知人の知人などいろいろな縁がつながって依頼され、毎年1校のペースで行っていて、今回は6回目です。
お二人の演奏に、子どもたちも引き込まれていましたね。
美代子さん|子どもたちの目がキラキラしていて、すごくかわいいんですよ。公演後に送ってくださる子どもたちの感想文を読むのも楽しみですね。
康史さん|東京の学校公演などもやっていますが、玉村町の子どもたちは本当に素直で、こちらが逆に楽しませてもらっています。
学校公演だけでなく、近くの公民館での敬老会など、ボランティアで演奏することもあるし、玉村八幡宮の催しや、お正月の賀詞交換会などでも演奏させていただいています。
恒例となった小学校での出前ライブ。目の前で奏でる生演奏の邦楽に、子どもたちも興味津々。
そういう地元の文化振興への貢献から「玉村町文化功労章」を受賞されたのですね。
美代子さん|それもありますが、康史さんが日本郷土民謡協会全国大会の尺八部門でグランプリをいただいたことも関係しているかな。
康史さん|せっかく縁があって移住したので、この町で邦楽を広めていきたいと思うんです。生演奏でないと伝わらないものがありますから。今日、ライブに来てくれた子どもたちの中から一人でもいいので、邦楽をやってみたいと思う子が出てくればいいなと思います。
自宅でも邦楽教室を開いている佃さん夫妻。日頃から楽器の手入れも欠かさない。康史さんは町の文化功労章も受章した。
移住して驚いたことや、困ったことはありますか?
美代子さん|風の強さにはびっくり!
車のドアを開けたら、ガンって隣に停めておいた車にぶつけちゃって。
康史さん|初めは雷にもびっくりしましたね。レストランで食事していて、ドッカンドッカン。二人ともワァワァ騒いでいるのに、周りの人たちは平然と食事していて、むしろそのことに驚きました(笑)。慣れてくると、災害が少ないことに安心感があります。台風も直撃しないし。
それと、生徒さんたちが当たり前に家でうどんを打つということにも驚きましたね。
美代子さん|「おうどん打ったんですよ」って持ってきてくださることもあるんです。「おうどんってお家で作れるんだ!」って思って。
康史さん|県外から遊びに来てくれた人からは「真っ平らだね。空が広いね」ってよく言われます。平地だし高い建物もないから、遠くの山がきれいに見えるんです。山の形も稜線がしっかり見えて。
お仕事のない日は、どのように過ごしていらっしゃいますか?
康史さん|食べ歩きすることが多いですね。群馬は粉物がみんなおいしい。東京だと当たり外れがあるけれど、どこの店でもおいしくて外れがない。
美代子さん|粉物がおいしいのは同感です。カフェめぐりもします。東京からも近いし、オンもオフも充実して過ごせる場所ですね。
前橋や高崎など都市部に近接していながら田園風景の広がる玉村町。ご近所には畑を持つ家も多く、野菜をいただくこともよくあるという美代子さん。都会と違って人の温かさを感じることが多いのも群馬の魅力だとか。
移住に際してアクセスのよさを一番に考えたという佃さん。高速道路を使って遠方へ移動するのはもちろん、近くに大型ショッピングセンターがあるので、日常の買い物などもとても便利だという。