海外のアーティストに滞在制作する場を提供し、創作活動とともに日本の田舎暮らしの魅力も発信している藤岡市鬼石地区。ここに移住し、空き家をリノベーションして念願のゲストハウスを開業した岩本さんに、開業に至るまでの経緯や今後の夢を語っていただいた。
伊勢崎市境出身。ワーキングホリデーで訪れたニュージーランドでゲストハウスに魅せられ、東京で修業した後、藤岡市鬼石地区に移住。ゴルフ場で働きながら、2020年1月、ゲストハウス「さんと宿(す)」をオープン。
念願だったゲストハウス。やっと開業までこぎつけました。いろんな人に助けてもらって、空き家を少しずつリノベーション。このウッドデッキもみんなで造ったんですよ。
この庭でバーベキューをしたり、流しそうめんをしたり、餅つきをしたり…。これからゲストを迎え、どんなことをしていこうかと、すごくワクワクしています。
仲間と一緒に造ったウッドデッキ。庭のしだれ桜が満開になったら、ここで花見も楽しめる。
ゲストハウスを始めたいと思ったきっかけは?
都内の語学学校卒業後、建築関係の会社で働いていましたが、昔からずっと外の世界を見てみたいと思っていてニュージーランドに行こうと。なぜ、ニュージーランドかというと、小学生の頃、叔父の家にホームステイしていたニュージーランドの人に、もう一度会いたいと思ったんです。フェイスブックなどを駆使してコンタクトを取ったところ、「ぜひ、おいでよ」と言ってくれました。それで、ワーキングホリデーで1年間ニュージーランドへ。そこで泊まった宿がゲストハウスだったのがきっかけですね。
世界中からゲストが来ていて、長期滞在の人が多く、自然と仲良くなって自分の国の料理をみんなで作りあって、飲んで、夢を語り合ったのがすごく楽しかった。
自分のやりたいことは「これだ!」と思ったんです。
ニュージーランドでは、どんな日々を過ごされたんですか?
ずっとゲストハウスで働いていました。清掃とかカウンター業務をすると宿代が無料になる制度があって。宿で働くのは毎日3時間くらいなので、その他の時間は別の仕事をしたりしました。時給もよかったので、結構お金を貯めることができましたよ。なおかつ勉強しながら、語学力も磨かれて、いろんな人とつながれて、とてもいい経験でした。
ゲストハウスの素晴らしさを熱く語る岩本さん。面白い人が集まる鬼石でやってみようと決意した。
帰国して、鬼石にゲストハウスを開業しようと思ったのは?
まずは修行が必要だなと思って、いろいろ調べた結果、品川のゲストハウス品川宿という宿に行きつきました。見学に行ってみたら、東京のど真ん中なのに昔の宿場町というか、古き良き日本の下町の風情が残っているんです。自分の中でビビッと来ましたね。たまたまスタッフ募集をしていたので、すぐに応募しました。
品川でも、いろんな人とつながることができました。まちづくり活動で東京と群馬を行き来している人と知り合いになって、群馬だったら、海外アーティストが集まる鬼石が面白いよと紹介されたんです。
それで地元の伊勢崎ではなく、鬼石なんですね。
鬼石には全くなじみはなかったんですが、来てみたらすっかり気に入って。ここに住んでゲストハウスを始めたい!と。最初に相談に乗ってくれたのは、八塩温泉「八塩館」社長の堀口さんと鬼石支所の宮下さんのお二人でした。二人とも顔が広くて、お二人の紹介で家が決まり、移住したのが2017年4月のことです。
頼れる人がいてよかったですね。その後の人脈づくりは?
鬼石の魅力の一つが、とにかく人のつながりが強いこと。紹介の紹介という形で知り合いがどんどん増えました。特に、祭りの仲間に入れてもらえたことは大きかったです。鬼石夏祭りといって、7月中旬に町会ごとに山車が繰り出す盛大なお祭りですが、誘われて相生町という町会に入りました。
知り合った人たちに「ゲストハウスをやりたいので、空き家を探している」と言っていたら、ここを紹介されたんです。2019年2月に借りて、5月頃からリノベーションを始めました。
オレンジの屋根が山並みに映えるゲストハウス「さんと宿」。2階のベランダから眺望が広がる。
吹き抜けの玄関ホール(左)。アーティストからいただいたカップ類(右上)。客室の建具や調度品などもいただきものを活用(右下)
すごく素敵な宿ですが、リノベーションはどのように?
もともと仮住まい用に頻繁に利用されていたので、比較的状態はよかったんです。DIY好きな人たちが集まって、それぞれの得意分野を生かしてリノベーションしました。
キッチンは廃材を使って全て手造りで、木目を生かした仕上げやタイルを貼ったりして、細部にこだわった素敵なデザインになりました。近くの解体する家の方から建具や家具をいただいたり、廃材で床を張ったり、壁を塗ったり。同年代の仲間たちがどんどん集まってくれて。エアコンの取り付けなど電気工事はお祭りでお世話になっている電気屋さん、水回りは仲良くなった設備屋さんが引き受けてくれました。すべてメイドイン鬼石ですよ。
リノベーションには、同世代の仲間たちやお祭りで知り合った人たちが手を貸してくれた。
廃材を組み合わせて改装したキッチン。木目を生かしたデザインが気に入っている。
週末だけのオープンとのことですが、ウィークデーは?
月曜から木曜まではゴルフ場で働いています。フロントでの受付、予約処理業務なので宿の業務にも生かせます。それに、東京方面からのお客さんが多いので、今後はゲストハウスに泊まってもらうゴルフプランとかも提案できればと思っています。
軌道に乗るまでは週末だけの営業だけですが、イベントなどと絡めながら、ゆくゆくは宿だけでやっていきたいですね。
ゲストハウスで今後やりたいことは?
群馬の良さ、鬼石の良さを広めていくイベントを考えたいと思っています。品川の宿で好評だった「上毛かるた」はぜひやりたい。料理のワークショップとか、利き酒会とか、読み聞かせとか、鬼石町歩きツアーもしたいですね。
アクティビティーもいろいろ考え中です。近くの川は水遊びやカヌーもできるし、キャンプに来る人も多い。バイクと自転車のツーリストも多いので、そういう人たちもぜひ取り込みたいですね。
ゲストハウスでやりたいことを次々と考案中。群馬の良さを知ってもらうために「上毛かるた」は外せない。
岩本さんにとって、鬼石の魅力は?
最大の魅力は人だと思います。会いたい人、才能がある人、記憶に残るユニークな人がたくさんいます。最近はそれらの人々にひかれて、さらに人が集まってきています。3月から11月までのアート・レジデンシーの期間には、海外からのアーティストもたくさん集まります。仲良くなって、絵を描いてもらったり、陶器をいただいたりすることも。
まちなかに「鬼カフェ」というみんなが集まるスポットがあって、僕もよく出かけます。そこに行くと誰かしらに会えますね。
このまちに興味を持った人がいたら、今度はぼくが、人と人をつなぐ役割を果たしていければと思っています。
▼宿情報はこちらまで
鬼石には空き家がまだまだあるので、住みたいと思ったら、まずは誰かしらに相談するのがいいという岩本さん。ゲストハウスで町に住むように滞在してみて、まちの良さを見つけてほしいとか。
人脈を広げるために、いろんなところに顔を出して、実際に会って話をしてきたという岩本さん。
お誘いを受けたら喜んで顔を出して、その都度ゲストハウスの話をしていたとか。