長田樹郎さん・祥子さん・椋くん、梛くん

県東部の桐生市の中でも赤城山東麓に位置する黒保根地区は、豊かな自然に恵まれた山間地。ここに都市部から移住して、築100年を超える古民家を店舗兼自宅としてリノベーションした長田さんご夫妻。開業に至るまでのご苦労や、山間部での暮らしについて伺った。

長田樹郎さん・祥子さん・椋くん、梛くん

埼玉県→桐生市(2017年移住) 長田樹郎さん・祥子さん・椋くん、梛くん

profile

夫婦と椋くん(中3)、梛くん(2歳)の4人家族。長男の椋くんが中学に進学するタイミングで移住し、山の中に佇むエキゾチックな雰囲気が素敵なレストラン「69Tree(ロックツリー)」を開業した。

午前8時半。 子どもたちを 送り出したら 店の仕込みを始める。

樹郎さん|ここで暮らすようになって早寝早起き、意識しなくても規則正しい生活リズムになりました。自然の力ってすごいなって思います。夜は星がきれいで、月がまぶしいくらい。ぼくは8時半くらいに寝ます。9時は深夜って感じかな(笑)。

祥子さん|野生動物も遊びに来ます。鹿とか猿とか、退屈しないですよ。

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音楽が趣味というご夫妻らしく、店内にはドラムセットやギターなどの楽器が飾られている。店名の「69Tree」もロック(音楽)とご主人の名前の一部「樹」から名付けたとか。

ここに移住されるまでは?

樹郎さん|ぼくは、学生時代からしょっちゅう外国へ旅していました。その土地の一般の人の暮らしを知るのが楽しくて。仕事は、アパレル関係や輸入雑貨の店、ケータリングのカレー屋も開きましたね。働いて、お金が貯まるとまた旅に出るみたいな。そうしているうちに、両親も高齢になってきたので実家の行田に帰り、ラーメン店を開いていました。

祥子さん|私は行田で介護の仕事に就いていました。主人とは共通の趣味の音楽を通して知り合って、結婚後は主人に連れられてインドとか東南アジアとかを旅しました。何も決めずに行くのがすごく楽しかった。

樹郎さん|実はここに移住する前、タイで日本食レストランを開こうと、ほぼ決まっていたのですが諸事情で頓挫してしまって。そんなとき、たまたまインターネットで、売り物件になっていたこの家を見つけたんです。田舎暮らしへのあこがれもあって、来てみて一目で気に入りました。

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築100年くらいという森の中の古民家。その風情を残しつつ、おしゃれなカフェに生まれ変わった。

祥子さん|豊かな緑の中に建つ古い民家。ここで暮らしている自分が想像できるって思ったんです。息子も「おもしろそう!」と気に入ってくれて。

樹郎さん|ちょうど長男が中学校に進学する直前だったので、今しかない!と。住みたい気持ちが先行してしまって、深く考えずに契約しました(笑)。
市役所の移住窓口などを活用すればよかったけれど、それは後から気づいたんですよ。

結果的には正解だったのですね。店舗兼自宅への改装はどんなふうに?

樹郎さん|それが思ったより大変で。典型的な養蚕農家だったのを床や壁を外して、天井の石膏ボードもはがしました。2か月くらいは外で煮炊きしたりして、キャンプみたいな生活でしたね。DIYの得意な友人が東京から泊まり込みで時々来て手伝ってくれました。

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移住してから生まれた次男の梛くんは現在2歳。保育園の同級生は少ないが、年齢関係なくお母さん友だちもできた。

祥子さん|私は下の子を妊娠中で、思うように動けなかったんです。途中で改築を長期間休んだこともありました。

樹郎さん|僕も怪我したりして、もうだめかなと思ったこともあったけれど、1年半くらいかけて、やっと開業できるところまでこぎつけました。

地元の人に助けられたこともありますか?

樹郎さん|もちろんです!想像していなかった問題も多々発生しました。水道は湧き水なんですが、地下埋設している管が破裂して使えなくなってしまったことがあって。埋設当時の図面もなくて困っていた時、地元の人に助けていただきましたね。

祥子さん|私は臨月くらいのとき、「お前、そんなでかい腹してどうしたんだ?」って、地元のおじさんに話しかけられて親しくなり、それからずっとお世話になりっぱなしです。暖房の薪をどうしたらいいかと相談したら「うちのを持っていけ」と。大感謝ですね。

樹郎さん|不便なこともあるけれど、人の温かさを実感するので精神的には心地いいです。ご近所は農家が多く、毎日のように野菜を持ってきてくださることも、今まで経験したことがありませんでした。

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長田樹郎さん・祥子さん・椋くん、梛くん

梁や柱を残して壁や天井や床を外し、広いスペースを確保した店内。こだわりのインテリアがエキゾチックな雰囲気を醸し出す。

お店は、エキゾチックな雰囲気がとても素敵ですね。

樹郎さん|インテリアはアジアやアフリカへの旅先で見つけてきたものや、以前から集めていたものなどいろいろ。多国籍な感じでしょうか。
メニューは9種類のラーメンをメインに、いろいろ開発中です。僕がラーメン、家内がカレーなどアジア系のごはんものを担当。なるべく地元の食材を使って、山の中でもわざわざ足を運んでいただけるように、他では味わえない味を目指しています。
平日は地元のお客さんが多いのですが、土日は日光や草木湖の方へ向かうバイクや自転車のツーリングのお客さんがよく来ます。ここがツーリングのメッカだというのは後から知ったんですが、オンロードはもちろん、山の中を走るオフロードの人も来ますね。

祥子さん|全身泥だらけの人がきたこともありますよ。「どうしたの!」って聞いたら、山の中をバイクで走って遭難しそうになったって(笑)。

樹郎さん|お世話になっている地元の人への恩返しというほどではありませんが、このスぺースを開放して、いろんな行事に活用していただければとも思っているんです。
去年は試しに音楽イベントをやってみましたら盛況で、毎年恒例にしていきたいですね。それから、星を見る会とか映写会、ワークショップ……。いろいろやってみたいことはあります。いろいろな人たちとの交流の拠点になるといいなと思います。

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地元の人にもスペースを開放し、音楽イベントや映写会、星を見る会などさまざまなイベントを企画したいと夢が広がる。

祥子さん|私はデリバリーのお弁当をやりたいんです。もともとは介護の仕事をやっていたので、お年寄りが大好き。お弁当を届けつつ、地元のお年寄りと交流できたらいいなと思って。

田舎暮らしを考えている人へのアドバイスがあれば

樹郎さん|あまり急がないで、ゆっくりこちらの時間に合わせたらいいと思います。想像していなかった問題が出てくるかもしれませんが、絶対クリアできるから、あきらめちゃだめですね。

祥子さん|移住してきた人同士で固まることが多いと聞きますが、せっかく移住してきたのだから地元の人と仲良くなりたいですね。あいさつから始めて、自分から声をかければ、お友達になれますよ。

▼「69Tree」の情報はこちらまで

消防団について

消防団に入ったことも、地元の仲間として受け入れてもらうのにとても役立ったという樹郎さん。訓練の日は、その後一緒にお酒を飲んで、本音を言い合える関係になれたとか。

山間部での開業について

山の中の“隠れ家ごはん”として徐々にファンを増やしている「69Tree」。特別なPRはしなくても、訪れたお客様がSNSで発信してくれて、次から次へと広がってきているとか。

 

 

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