阿久澤 慎吾さん

阿久澤 慎吾さん

古くから関東と信州を結ぶ街道沿いの宿場町として栄えた下仁田町。その名残をとどめる街並みの中に、蔵造りのおしゃれな飲食店がある。都内からUターンして自分の店を開業した阿久澤さんに、ふるさと下仁田町での新たな挑戦について伺った。

阿久澤 慎吾さん

東京都→下仁田町(2019年移住) 阿久澤 慎吾さん

profile

下仁田町出身。大学入学とともに上京し、卒業後も都内で雑誌の編集者として14年間働いた阿久澤さん。東京でやりたかったことは全部やれたと感じ、地元にUターン。半年後には、カレーと珈琲の店「シモンフッド」を開店した。

午後2時。ランチが終わったらほっと一息。ゆっくり流れる時間が心地いい。

東京では雑誌の仕事をしていたので、絶えず時間に追われる生活でした。地元に帰ってきて、ゆっくりとした時間がすごく心地いいなと感じます。時間の流れる速さが全然違いますね。山の緑や青空を眺めて「今日はいい天気だな」なんて。東京では空なんか眺めたことなかったから。
生活も規則正しくなりました。朝はちゃんと起きて、8時半にはお店に来ます。そこから仕込みなどして11時半に開店、夜は8時に閉店です。その間、ランチのお客さまが落ち着いたら、少しのんびりする時間も生まれます。

地元に戻ろうと思ったきっかけは?

将来的にはいつか戻りたいと、ずっと思っていたんです。編集者として、バイク関係の雑誌やフード関係の雑誌など、ある程度やりたいことができて満足感もありました。高校卒業まで下仁田にいて、東京に出て18年。36歳になった今、ちょうど半分過ぎたところで、戻ることをちゃんと考えてみようと。

東京では雑誌の編集者として働いていた阿久澤さん。取材の際にさまざまなカレー店のオーナーから聞いた話が開業のきっかけとなった。

仕事として飲食業を選んだのはなぜですか?

下仁田に戻って、企業に就職するというのはあまりイメージできなかったんです。
Uターン前に、「RiCE」という食の雑誌でいろんなお店を取材する機会があって、オーナーさんたちのお話を聞くうちに、自分でもやってみたいという気持ちが湧いてきました。特にカレー特集の取材をしたとき、それぞれバックグラウンドに個性があって、カレーって自由なんだなと思って。料理学校に通ったり、レストランで下積みしたりしなくても、独学で始められるかもしれないと。
知人で、長年東京でカフェを経営していた丸永も誘って、カレーとコーヒーの店を開くことを決めました。

下仁田の古い街並みに似合う蔵造りの素敵なお店ですが、ここはどうやって?

下仁田で始めるのは厳しいかなと思って、最初は富岡の製糸場の近くで、空き店舗を探しました。物件もある程度固めていたのですが、これといって決定的じゃなかった。
そんな時に、たまたま町のホームページでチャレンジショップの募集記事を見つけました。駅前の恵比寿屋さんが町に寄贈された建物で、元は米蔵だったそうです。すぐに内見させてもらったら、すごく立派な建物でびっくり。募集して2年ぐらいたっているのに、まだだれも使っていなかったんですよ。
役場の担当者からも、ぜひ使ってほしいと勧められて応募しました。

蔵造りの風情が街並みになじむ「カレーと珈琲 シモンフッド」。店名は地元の呼び方で下仁田を表す「しもんた」と地元という意味の「~hood」を組み合わせたという。

チャレンジショップというのは、どんな事業ですか?

町がリノベーションした建物を、起業したいという人に貸し出す事業です。期限は最長3年間、家賃は月2万円と格安です。小売店でも飲食店でもOKで、厨房機器などの備品もある程度そろっていたので、自分で用意したのはテーブルとイス、一部の照明くらいですね。
借りられる期限は決まっているけれど、開業資金がわずかでも始められるのがいいところ。未経験からの挑戦なので、こういう場所からスタートするのもいいかなと。

ゆっくりくつろげる畳の間。造り付けの箱階段や飾り棚などには、阿久澤さんが編集者時代に手掛けた雑誌が置かれている。

太い梁や柱、漆喰の壁、防火窓など米蔵だったころの名残をとどめる2階は、衝立を外せば大人数にも対応可能。

それにしても未経験からお店を開業するって、大変ですよね。

大変でしたが、店舗はチャレンジショップだし、役場の担当者から教えていただいて県の起業支援金もいただけることになりました。おかげで資金の目途がたてられ、開業まで約半年間はカレーの勉強や試作に集中できました。
独学で本をたくさん読み、試作を重ねて作り上げたカレーは現在4種類。ルーを使わずスパイスだけでソースにしたカレーです。食材は、スパイスは業者さんから仕入れますが、野菜は地元のものを使っています。近くで新鮮な野菜を安く仕入れられるのは有難いですね。メニューも、その時々の旬のものを使おうと思っています。
準備期間中も、町の人たちが気にしてくれて声を掛けてもらったり、夏祭りに出店してチラシを配ったりしました。
地元の人に来てもらいたいので、なるべく入りやすい雰囲気にしたい。だれでもふらっと気軽に入れる、開放的な店にしていきたいと思っています。

お客様との会話が楽しめるカウンター席。都内でカフェを経営していた丸永さんや、スイーツが得意な母にもスタッフに加わってもらった。

(左上)カレーに使うさまざまなスパイス。(右上)こだわりのコーヒーを淹れる丸永さん。(左下)スパイシーで香り豊かなキーマカレー。(右下)母の手づくりスイーツも人気。

高校生まで過ごしていたときとUターン後で、町の印象は変わりましたか。

町自体はほとんど変わっていないと思いますが、九州出身で一緒に東京から来た丸永に町を案内した時、青岩公園とか周囲の山々とか、昭和レトロな街並みも含めてすごく興味を持ってくれたんです。「面白い町だね、こんな町はないよ」と言われ、改めて見てみると、結構面白い町だなって再発見しましたね。
人と人との距離が近いことも、丸永に言われて気づきました。町の人はもちろん、役場の人も金融機関の人も、本当に親身になってくれます。東京では行政の人と話をするなんてありませんから。小さな町ならではだと思いますね。

開店して半年、これからの夢や目標は?

店舗の貸出期間のうちに町の人に知ってもらって、3年後には町内でまた同じような形の店を開くのが夢です。それと、同じ業種の人とコラボして、つながりを広げられたらいいなと。東京ではカレー屋さん同士のコラボイベントが頻繁に行われていたんですが、群馬でもやれれば楽しいかなと思います。

▼カレーと珈琲「シモンフッド」の情報はこちら

県の起業支援金について

阿久澤さんが利用した起業支援金は、必要資金の半額、最大200万円まで県が支援する制度。毎年5~6月に募集があり、事業計画や自治体の推薦書などを添えて応募する。

Uターンの利点について

飲食店を開業するのに地元出身という点が大きかったという阿久澤さん。子どもの頃の自分や家族を知っている人が多いので、どこに行っても警戒されることなくスムーズに話を進められたとか。

 

移住者インタビュー一覧に戻る