良くなるのも悪くなるのも、自分次第。自分への評価をダイレクトに感じる楽しさ。
祖父の畑を引き継ぐ形で、サラリーマンから農家に転身しました。知識ゼロの状態で、農業の世界に飛び込んだ祖父江さんに、農業をやろうと思ったきっかけや、サラリーマン時代と農家をしている現在との変化などを伺いました。
なぜ、富岡市に移住したのですか?
出身は長野県松本市です。富岡市には母の実家があり、子どもの頃、夏休みに遊びに来ていました。祖父母は農業を営んでいましたが、その跡を継ぐ者はいない状態でした。以前から、私は農業に興味があったのですが、建築工事の営業担当として忙しく働くサラリーマンで、生活も安定していましたから、仕事を辞めるタイミングではありませんでした。祖父が他界した後、祖父が残した畑をどう管理するかという話になった時、農業を一からやってみようと決意しました。2020年春、富岡市に移住しました。今は、妹と一緒に祖父が残した家で暮らしています。
なぜ、農業をやってみようと思ったのですか?
農業は、農作業も経理も自分でやって、やった分だけ、自分に返ってきますし、やらなければ、それだけ自分に跳ね返ってきます。そういうところに魅力を感じていました。祖父が生きている時に、農作業のノウハウを教えてもらったわけではなく、農業については、インターネットや本を読んで得た情報しかありませんでした。富岡市に来てから、新規就農の育成や受入を行っている富岡市や農業指導センターに相談に行き、研修先の農家さんを紹介してもらいました。1年間、地元の農家さんで研修。2021年10月、就農しました。
露地ナスをメインに、ニラやホウレンソウ、下仁田ネギなどを作っています。ナスは5月に苗を植え、7~8月に収穫のピークを迎えます。朝採りのナスを農協に出荷するのが主な販路です。収穫ピーク時には午前3時に起床。午前4時に畑へ行き、2時間ほど収穫。作業場に戻り、ナスの選別を行って、午前8時までに出荷するという流れです。
今、自立してちょうど1年が経ったところです。1年間はあっという間に過ぎ去りました。研修で基本的な作業や考え方など、一通りを学びましたが、実際、一人でやってみると、当然、習った通りにはいかず、農業の難しさを痛感しましたね。研修が終わってからの方が、研修先の農家さんや近くの農家さんに、教わりに行く機会が増えました。
就農して1年、生活に変化はありましたか?
会社員の時は、多少業績が悪くても、給料は保証されていました。何か失敗したとしても、自分一人の責任にはなりません。農業では、失敗したら困るのは自分自身。どれだけ頑張って、手間暇かけても、天候などに左右されることもある、厳しい世界です。ただ、仕事のペースを自分で決めることができますし、効率よくできるようになれば、稼ぎも自分でコントロールできるようになります。言い換えれば、誰にも何も言われない分、自分できっちりとやっていかないと、ズルズル流されてしまう可能性もあります。すべては自分自身。良くなるのも悪くなるのも自分次第、だからこそ、自分自身を律していかないといけないと思うようになりました。
就農して良かったことは?
自分のやっていることの評価がダイレクトに感じられることです。また、今まで知らなかった知識や考え方に触れる機会が増え、新しい世界を知る楽しさもあります。農業を通した新たなコミュニティも生まれ、人生が豊かになっていると感じています。しかも、自分で作ったナスなどの野菜(規格外)でおいしくご飯が食べられるのもうれしいことですね。
地域とのかかわりはありますか?
富岡市が行っている「農家の課題解決プロジェクト」のほか、青年会、ナス部会、ニラ部会など、積極的に参加しています。農業は、人と関わることなく、一人で黙々とできるというイメージを持っている人も多いと思いますが、実際は、人づきあいなしに農業をやっていくのは難しいと思います。困った時に話ができる人、頼れる人は必要で、横のネットワークをつなげて、コミュニケーションをとることも大切だと思っています。
農業を始めたい人へのアドバイス
大事だと思うのは、計画性と貯蓄とやる気です。農業は自営業ですから、1年を通して、何を作っていきたいのか、具体的な計画を立てることは大事だと思います。自分で一度じっくりと考え、計画を立てた上で、自治体などに相談に行くといいと思います。それから、貯蓄です。農機具の購入など、最初はお金も必要になってきますから、できるだけ貯蓄をしておくことをお勧めます。そして、最後は、やる気です。やる気さえあれば、なんとかなります。私は失敗をしていますし、キツイと思うところもありますけど、楽しくやっています。