りんごの成長が、自分の努力を映し出す。「買ってよかった」と思ってもらえるりんごを作る。

 収穫できるりんご畑があることと、研修先となったりんご農家さんとの出会いが、移住の決め手だったという郷原さん。「このりんごを買ってよかった」と言ってもらえるりんごを作ることがポリシーだといいます。りんご農家へと転身を遂げた郷原さんを訪ねました。

郷原 遼太郎さん
(東京都世田谷区 → 群馬県吾妻郡中之条町)
東京都世田谷区出身。29歳まで神奈川・東京で過ごす。東京でスーツを来たサラリーマン時代を経た後、ワーキングホリデーでオーストラリアへ。2019年、中之条町へ移住。2021年、新規就農。「Free da FARM」園主で、ふじ・ぐんま名月・シナノスイートなどを栽培。現在もりんご畑を拡大中。

移住しようと思ったきっかけは?

 きっかけは、オーストラリアでのワーキングホリデーです。それまでずっと東京暮らしで、スーツを着て営業をしていました。当時、東京にこのままいるのがいいのか、サラリーマンとして働くのがいいのか、少し迷っていた時期でしたね。一度、東京ではないどこかへ行ってみようと思い、オーストラリアへ。ワイン工場でのブドウの収穫やイチゴ、ブルーベリー、ズッキーニ、りんごの収穫など、農業の仕事に従事しました。

 オーストラリアで滞在したところは、いわゆる辺ぴなところでした。東京はものがあふれていて、24時間営業のコンビニもたくさんあり、何か欲しいと思ったら、すぐに買いに行ける場所です。オーストラリアでは、何か欲しいと思っても、すぐ手に入りませんでした。そういう生活をすることで、ものがあふれていなくても、ものがなくても、生活できると思うようになりました。1年半のワーキングホリデーでの経験で、生活に求める価値観が変わったように思います。

 帰国後、やったらやった分だけ自分に返ってくるような仕事をしたいと思いながら、移住先を探し始めました。

中之条町とりんご畑との出会いは?

 移住先は東京の実家まで、その日のうちに帰れる距離の場所を希望していました。そこで、東京とアクセスが良い群馬県の移住フェアに参加し、移住コーディネーターさんとともに、移住先候補地となる4市町村をめぐりました。そこで、たまたますぐに収穫できるりんご畑があるということで、中之条町への移住を決めました。

 農業をしたいと思っていましたが、何がしたいかは明確ではありませんでした。畑でも良かったし、牛でも良かった。中之条町は、りんご畑がすでにあったことで、なんとなく将来像が見えました。ここ中之条町で、今できることをやろうと思いました。

 2019年10月、中之条町に移住しました。りんご栽培の研修を1年半受け、2021年に独立就農しました。就農してからずっと、「りんごがおいしくなるのか・ならないのか」、「りんごが大きくなるのか・ならないのか」といった不安とともに、生活しています。りんごができなかったら、収入がない状態になるので、就農1年目は本当に不安でしたね。できたりんごは、おいしいか、おいしくないかで判断されます。おいしくなければ、先がない。1年目はおいしいか、おいしくないかを素直に言ってくれる人を探して、自分のりんごを食べてもらいました。まだ直売所を持っていないので、中之条町ふるさと交流センター「つむじ」や中之条ガーデンズで販売してもらっています。

りんごづくりの大変さは?

 りんごは一人前の木になるまでに時間がかかることですね。2020年から毎年、りんごの木を100本ずつ植えていますが、りんごが収穫できるようになるのは5年後になります。野菜なら、1年を通して、季節ごとに収穫できますけど、りんごはシーズンに1回しか収穫できません。しかも、収穫時期は短いです。今は、補助金をいただいているので、守られていますが、就農6年目から、売上を上げていかないと、厳しくなると思っています。その対応策として、来年、再来年とブドウを植える計画を立てています。

 りんごづくりは大変なのですが、やめようと思ったことは一度もありません。りんごの作業は1月の剪定から12月の収穫まで、1年を通してあるのですが、りんごの木の葉っぱの状態を見れば、どういう仕事をしてきたかがわかります。どこかで仕事を雑にすると、りんごの木は悪い方に反応しますし、しっかり手をかければ、良い方に反応してくれます。やったことの結果が、りんごの成長過程に出るので、「しっかりやろう、今度はこうしてみよう」とやる気が出てくるのだと思います。

農業を始めたい人へのアドバイス

 「つらい」にウェイトを置くと、なんでもつらくなってしまうと思います。何か一つ、楽しいことを見つけて、それがどんどん大きくなっていくのを楽しむのが一番良いと思いますね。拡張しているりんご畑で収穫できるようになるには、まだまだ時間がかかりますが、その過程を1個1個積み重ねて、大きくしていきたいと思っています。やったらやった分だけ、ちゃんと返ってくるのが農業ですから。