農家と交流を深めながら、地元の農産物を使い、味噌や糀をつくる。伝えるのは、ローカルなものをいただく大切さ。

 国内外のアーティストが地域に滞在して作品を制作するアート・イン・レジデンスをきっかけに、藤岡市鬼石地区との縁が深まり、移住したという星野さん。豊かな自然とのんびりした雰囲気にひかれたという星野さんに、鬼石地区での暮らしを聞きました。

星野 潤さん
(群馬県前橋市 → 群馬県藤岡市)
2019年、地域おこし協力隊として藤岡市鬼石地区に移住。2022年2月、3年間の任期を終了。鬼石地区に古民家を購入し、民泊や展示会もできる、田舎暮らしを味わえる宿「暮らす宿・ほしのいえ」をオープン。地元の農家から米や大豆を仕入れ、味噌・糀づくりも行っている。

移住したいきさつは?

 群馬県前橋市出身。群馬にUターンする前は、東京・駒沢や京都で暮らしていました。2011年の東日本大震災の時、都内のシェアハウスを兼ねた飲食店で働いていたのですが、震災後に自分で食べ物をつくることの大切さを痛感しました。当時、東京のど真ん中にいましたし、リアルに農業をするのは難しかったので、週末に、飲食店でお付き合いのあった群馬県や長野県の農家さんの手伝いをし、土に触れ合う体験をさせてもらいました。規格外となった野菜を購入し、飲食店で使用。また、「自分たちで食べ物をつくる」を目標に、いろいろなワークショップを開きました。その一つが味噌づくりです。味噌や糀をつくるだけでなく、味噌づくりのワークショップの講師もしていました。藤岡市の有機農家さんと出会ったのもこの頃で、仕入れなどで行き来しているうちに、群馬に帰りたいという気持ちが強くなってきました。

 藤岡市鬼石地区で開催されているアート・イン・レジデンスに出かけたのをきっかけに、群馬に帰ってくるたびに、藤岡市鬼石地区に遊びに来るようになりました。アート・イン・レジデンスは、外国人のアーティストが鬼石地区に滞在してアート制作をするというイベントです。自然環境が豊かな田舎なのに、多様な文化を受け入れている鬼石地区の人々とつながりが深まっていったことで、鬼石で暮らしてみるのもいいかなと思えるようになっていました。そんなとき、藤岡市で地域おこし協力隊の募集があることを知り、応募。2019年に藤岡市鬼石地区に移住しました。

今、どんなことをしていますか?

 無添加・天然醸造がこだわりの米糀を作り、味噌や塩糀、甘酒などの加工品販売のほか、味噌づくりのワークショップを行う発酵案内人として活動しています。地域おこし協力隊は、2022年2月に3年間の任期が終了しました。

 任期中、地域の観光やイベントの手伝いをしていく中で、鬼石地区で売りに出されている古民家と出会いました。典型的な養蚕農家で、地域の文化が根付いている家です。こういう場所で、土に近い暮らしをしていきたいという気持ちがあったので、思い切って購入しました。僕も手伝いをさせてもらいながら、少しずつリノベーションし、2021年3月、「暮らす宿・ほしのいえ」をオープンしました。僕と小学1年になる息子、パートナーの3人の自宅を兼ねた民泊施設として運営しています。四季折々の里山の風景の中で、なるべくサスティナブルな暮らしを実践して、訪れた人とも共有していきたいと思っています。「ほしのいえ」という宿名は、星野という名前にも由来しますが、ここを訪れた人たちが、それぞれありのままの輝きでいてほしいという思いを込めました。ここで、味噌・糀づくり、ワークショップ、アーティスト仲間とのイベントなどを行っているほか、移住を考える人に泊まってもらって、地域を案内する事業も始めています。

星野さんが思う農ある暮らしとは?

 僕は、専業農家さんのように、毎日、畑に行くという農との関わり方ではなく、農家さんが作ってくれたものを使って加工することを生業としています。庭の家庭菜園では、野菜やハーブを育て、ジュースや化粧水を作ったり、季節の山菜や果物、栗などをいただき、冬は薪ストーブで料理をしたり、暮らしの中に農が身近にあります。四季折々の自然の恵みを楽しみながら暮らしています。

 味噌・糀づくりでは、地域のものを使うことを大事にしています。ネットで世界中のものが手に入る時代だからこそ、ローカルなものをいただいていくことは大切なことだと考えています。

農ある暮らしをしたい人へのメッセージ

 なんでも楽しんでやることが一番大事かなと思っています。リビングにある薪ストーブで暖を取るのが、冬のお楽しみです。薪ストーブの周りで家族や宿泊のお客さんとおしゃべりしたり、料理をしたり、とても居心地の良い楽しい時間です。薪ストーブを楽しむためには、山から薪を切ってきて、軽トラで運んで、積み下ろして…という作業が必要です。それはそれで大変なのですが、「大変」というマインドでやっていると、「イヤ」になってしまう。この大変な作業をいかに楽しめるか、なのだと思います。

 群馬県は自然が豊かですから、スケールの大きい農ある暮らしを実践しやすい場所だと思います。同時に、プランターでトマトを育て、「トマトが一つ採れた」と小さな収穫の喜びを味わうような、農ある暮らしも始められます。僕もちょっとずつやっていって、今があります。少しずつ楽しみながらやってみるのが良いと思います。