伝統の栽培方法を受け継ぐ。下仁田ネギの生産を絶やさず、続けていくために。

 農家の後継者や担い手の確保は、深刻な課題です。澤さんは、その対策として下仁田町が実施する「地域おこし協力隊」として就農をミッションに活動しています。1年目から人脈を広げ、畑を取得し、下仁田ネギの伝統栽培に積極的に取り組んでいます。「クローバーファーム」と名付けた自身のホームページを作成し、ネットでの販売も開始。精力的に活躍する澤さんを訪ねました。

澤 祐介さん
(埼玉県深谷市 → 群馬県甘楽郡下仁田町)
2020年12月、地域おこし協力隊として下仁田町へ。ネギ農家で研修を受け、伝統野菜の栽培技術を身に付けながら、自らの畑で下仁田ネギやナスなどを栽培。ECサイトや自身のホームページ「クローバーファーム」で販売している。2023年11月に地域おこし協力隊の任期終了予定。2023年春から、前橋市に住んでいた妻と子どもが下仁田町へ移住。3児の父。

移住したきっかけは?

 出身は埼玉県深谷市です。結婚を機に群馬県前橋市に転居し、会社勤めをしていました。30代前半の頃、半年ほど農家さんのお手伝いをしたことがあり、以来、会社勤めをするより、自分で農業をやりたいと考えるようになっていました。といっても、どうしたらいいのか、わからない状態。農業ができる手立てや場所はないかと探していました。

 そんなとき、インターネットで地域おこし協力隊の制度を知り、下仁田町で農業の協力隊員を募集していることを知りました。自分の年齢を考えると、最後のチャンスだと思いましたし、後悔するよりやってみようと応募しました。2020年12月、地域おこし協力隊として着任。妻と子どもを前橋市に残し、単身で下仁田町にやって来ました。

地域おこし協力隊としての活動内容は?

 着任した12月は、ちょうど下仁田ネギの収穫期で、ネギ農家さん(師匠)で研修させていただきました。その間に、師匠から空いている農地を紹介していただき、自分で畑をやることになり、農家として自立するための一歩を歩み始めました。お借りした農地は、耕作放棄地で草ぼうぼうでしたが、手作業で草を刈るところから始めました。近くの牧場の方が大型トラクターで耕してくれたり、近所の農家さんが手伝ってくれたりと、さまざまな方にご協力いただきました。師匠からいただいた下仁田ネギの苗のほか、トマト、オクラなどを植えました。師匠のもとへ通い、下仁田ネギ栽培のノウハウを教わり、それを自分の畑で実践。育てた野菜は、道の駅やスーパーマーケットの地元野菜コーナーなど、インショップを中心に出荷しました。

 着任して丸1年となる2021年12月には、収穫した下仁田ネギをECサイトで販売しました。最初の一箱が売れた時は、うれしいという純粋な気持ちと同時に、農家としてよいものを提供していく責任を感じたのを今でも覚えています。2年目は、下仁田ネギとナスを栽培しました。ECサイトに加え、自分で作成したホームページ内で注文を受け付け、販売しました。任期中に栽培方法を身に付けることはもちろんですが、売るところまでできるようにならないといけませんから、いろいろと模索をしています。

農業を始めて良かったところは?

 ストレスがないことですね。自分はもともと早寝早起きで、夜更かしが苦手です。会社員時代の休日も、朝5時に起きていたぐらいです。朝早く起きたなら、早く仕事を開始して、早く家に帰りたいと思っていましたが、就業規則があるから、そうはいきませんでした。今は自由です。朝起きて、すぐに仕事に行けます。自分の思い通りに働けています。

下仁田ネギの魅力は?

 下仁田産の下仁田ネギは、唯一無二だと思います。下仁田ネギは種を植えてから収穫するまで、15か月かかります。真夏に一度すべて植え替えて、そこからもう少し太くしてと、とても手間がかかる野菜で、下仁田の農家さんたちがずっとやってこられた伝統的な栽培方法です。この伝統的な栽培方法のスキルを受け継いでいけていることはうれしいですし、この伝統栽培を守りながら続けていくことが、これから、自分のやるべきことだと感じています。

これからの目標は?

 まずは、農業で生計を立てていくことです。地域おこし協力隊となって、大変だったと思うことは一つもありませんでしたが、3年の任期を終え、農家として自立した後が大変になっていくと思っています。何も知らない素人でゼロからのスタートでしたが、地域の方々に本当に助けてもらいました。農家として自立した後は、伝統栽培を続けながら、法人化を目指し、下仁田産の下仁田ネギを継承していきたいと思っています。

農業を始めたい人へのメッセージ

 農業をやってみたいと思うなら、農業体験から始めてみるといいと思います。たまに、農業は楽しいですかと聞かれますが、楽しくはないですよ。楽しくはないけど、やりがいがあります。自分の作ったものを買ってくださる人がいた時、食べてくださる人がいた時、農業のやりがいを感じられると思います。